*

熟成肉、ブームはいいけど間違った方向に進み始めている

公開日: : 2014/04/12 熟成肉

_DSC2027

熟成肉がブームになっている。関係者が心配しているのは、あらぬ方向へいきかけていることである。「熟成肉」というのは定義がハッキリしていない。そこが盲点でもあるのだが、例えば肉を3日冷蔵庫に放置していても熟成と言ってしまえば熟成なのだ。

「熟成」と「発酵」はよく似た捉え方をされるのだが、「発酵」は外からの微生物の酵素で分解することで、「熟成」は、一定の温度を保つ冷蔵庫で肉を『寝かせる』ことであり、肉が持っている酵素によってたんぱく質が分解され、アミノ酸へと変化する。生物学的でいうところの「自己消化」が熟成なのだ。

いまブームになっている熟成肉は、本来ならドライエージングであるはずなのだが、ここ最近のメディアが発信する情報を見ると、なんでもかんでも熟成肉として捉えられている。一部の方々がニューヨークをはじめとしたドライエージングの先進国から学んだ知識と技術は、まぎれもなくドライエージングビーフであり、ようやく「熟成肉=ドライエージング」が認知されそうな気配のなか、次は熟成肉だとばかりに目ざとい人たちは群がり、とにかく乗っかり、ついには大きな企業までが便乗、流行(はや)りもののセオリーといってしまえばそれまでだが、熟成肉があらぬ方向へ一人歩きしているように感じるのだ。そしてドライエージングビーフも数日間寝かせた牛肉も消費者からみればすべて熟成肉であり、畜産関係者ですらよくわかっていないのが現状なのだ。

「ロイヤルホスト」や「カウボーイ家族」でも熟成肉のステーキを提供しているが、これらを熟成肉と呼ぶなら、まさになんでもありの世界になってしまう。 4月中旬には「吉野家」が牛丼の肉を熟成肉に変えるそうで、日本経済新聞の記事にはこう書いていた。

「これまでは港に着いた米国産の冷凍品をそのまま工場に運んで加工していたが、今後は肉が凍る寸前の温度に設定した冷蔵庫で2週間ほど寝かせて加工するととのこと」

熟成肉は、どうやら私たちが危惧していた方向に向かい始めているようだ。私が熟成肉を知ったのは10年以上も前のこと。枝肉の枯らしではなく、もちろんウェットエージングでもない。れっきとしたDAB(ドライエージングビーフ)のことだ。ニューヨークあたりでみかけるDABだ。私が手がけているのはさしずめ日本式DABといったところだ。

きっかけは経産牛だった。肉質が硬い経産牛をどうにか精肉として販売できないかと試行錯誤しだしたのが5年前のこと。ようやく販売できるレベルに達したのが2011年9月。完成度は高く自信はあったのだが、念のためにとDABに詳しいグットテーブルズの山本謙治氏(通称やまけん)に試食してもらった(冒頭の写真がそれだ)

その後、販売にこぎつけるまでには時間はかからなかったのだが、熟成専用の冷蔵庫もDABにこなれてきたこともあり、さまざまな品種の牛肉にチャレンジしてきた。近江牛の赤身(格付けA3以下)や和牛の経産はキレイに仕上がるのだが、短角牛や土佐あか牛、乳牛などは思うような結果にはならなかった。

理由は分からないが、微生物の付き方があきらかに違った。おそらく湿度を調整すれば多少は解決すると思うのだが、どちらにしても当店の冷蔵庫では赤身の強い和牛と経産牛(こちらも和牛)がDABに向いているようだ。いままで廃棄処分や、よくて加工品扱いだった経産牛がドライエージングによって新たな需要ができれば、繁殖農家さんから少しでも高値で引き取ることができる。

ところで、先日「食肉産業展」へ行ってきた。お目当ては熟成肉を出展しているブースだ。いくつかあったが内容はどこも似たりよったりでレベルが高いとはいえなかった。どこも試行錯誤の段階といったところだろう。そのための展示会なのだから興味のある方から意見を聞きながら精度を上げていき数年後には安価で完成度の高い熟成庫がお目見えするかも知れない。

熟成庫を出展しているブースに立ち寄って話を聞いてみたが、残念ながら参考になることはなかった。ハムだかサラミだかを作る冷蔵庫を無理やり熟成庫に改良しているだけで、これでは恐らく仕上がりのいいDABはできないだろう。店頭なんかでディスプレーとして使うには良いとは思うがいかんせん高すぎておいそれと手がでない。そのうち普及すれば大画面テレビのように安くなるかも知れない。無理を言って熟成庫の扉を開けて熟成中のロース肉を見せてもらった。案内係の女性は手を団扇のごとく揺らしながら、「甘~い香りがしますよ」としきりに私に言うのだが・・・

DABは、今後益々混沌とするでしょう。規定がない以上、取り締まるものがないですからね。長年の研究と努力で仕上げたDABも熟成肉なら吉野家の牛丼も熟成肉。体力のある企業がコマーシャルすれば消費者からすればなにもかもが同列になってしまいます。

消費者の方は、目の前の熟成肉だけを見るのではなく、背景を確認の上、買うなり食べるなり判断していただきたい。料理人のみなさんは、焼き方や調理方法に目がいきがちですが、熟成肉のできる環境含め、成り立ちに興味を持っていただき、技術と知識、そしてちゃんとした設備で取り組んでいる人から買っていただきたい。間違っても自分でDABを・・・なんてチャレンジはやめたほうが良いと思います。第二のユッケ事件をおこさないためにもお願いしたい。

 

記事が気に入ったらシェアをしてね

  • twitter
  • facebook
  • google+
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

国産牛のモモ熟成肉を販売します

山本謙治氏(やまけん)撮影[/caption] 2001年9月18日、忘れようにも忘れること

記事を読む

大分県産の経産牛を熟成させました

今号の「料理通信」はかなりおもしろいことになっている。知り合いのシェフが多く掲載されていて、

記事を読む

赤身肉をよりおいしく、技術と知識とガストロノミー

  明日からの年末年始の出荷ラッシュを迎えて、40日のドライエージングを経た

記事を読む

経産牛の熟成ウチヒラは赤身好きにはたまらない味だった

鹿児島県産黒毛和牛144ヶ月齢の熟成肉(部位:ウチヒラ)[/caption] 当店は、近江牛

記事を読む

IL GiOTTO(イルジョット)で熟成肉を食べる

肉は素材の良し悪しも重要だが、火入れによって味が変わる。 今回、駒沢にあるIL GiOTT

記事を読む

和牛・牛肉通販 近江牛.com

http://www.omi-gyu.com
近江牛だからおいしいとは限らない

私が幼い頃から慣れ親しんできた近江牛。だからこそあえて言わせて

ル・ルビーで肉とワイン会

私の昔からの福岡在住の友人&INUWine梅田さんの友

新店舗での求人を募集開始しました

(株)サカエヤは、2017年の9月7日に現店舗から新店舗へ完全

→もっと見る