あるシェフの言葉にシビレて眠れなかった。こういうシェフが指名してくれる肉を育てることが私の目標であり、やらなければいけないこと。その先にあるのは肉屋の社会的地位向上しかない。
あるシェフから送られてきた1枚の写真。僕も参加するはずだった食事会でしたが、翌日の朝が早いため泣く泣く欠席に。場所は東京駒沢にあるレストラン。
数か月前のことです。某所で私と知人のシェフ3名と食事をして、帰りに私たちと共通の知人がやっているレストランへ立ち寄ったのです。いつも忙しい店なのに、この日はお客様の引きが早かったとかですでに閉店していました。なので寄るのは悪いかなぁと思ったのですが、近くまで来ていることだし、せっかくなので30分ほど・・
が、1時間、2時間となるわけですが、ワイン片手に話す内容は、やっぱり肉しかありません。そりゃそうですよね、共通項が「肉」なのですから。しかしシェフとの会話は勉強になることばかりです。
2時間くらい経ったころだったかな。それほど飲んでる感じじゃなかったのですが、この店のシェフが急に声を荒げながら私と一緒に行ったシェフに激高しだしたのです。普段は温和でニコニコして腰が低いシェフなので驚きました。詳しいことは書けませんが、叱咤激励のつもりだったのでしょう。
ただ、会話の中で「この世界はそんな甘いもんやないで!悪いけどな、俺はいま頂点にいる・・・」と発言したシェフの言葉が、翌日も、その次の日も、ずーっと私の胸の奥にひっかかっていたのです。確かに腕はありますし、カリスマ性もあります。リスペクトしているシェフも多くいます。でも、なんか違うんですよね。もちろん俺が世界で一番だと思って料理を作ることは大切なことかも知れません。そう思うことの強さもときとして必要だと思います。
しかし、このシェフに至っては、それを口にしてはダメなような気がするのです。みんな思っていますよ、あなたはすばらしい料理人だと。でもね、この数か月、僕はずーっとざわざわしているのです。このときの光景が頭から離れないのです。「俺はいま頂点にいる」という言葉が何度も何度もリフレインするのです。
駒沢のレストランで食事をしたシェフから送られてきた1枚の写真。送り主は、いま日本の料理界で分野を問わず、技術的にも、人間的にも、最も尊敬されているシェフと言っても過言ではありません。料理に関わっている方なら、おそらく直接知らなくても専門誌にも多く登場しているので名前くらいは聞いたことがあるでしょう。
そのシェフが、料理に感動してメッセージをくれたのですが、まるで目の前に焼かれた肉が乗っている皿があるかのような心が宿った内容でした。そして私が揺さぶられたのがこの言葉です。
「イメージが掴めてると言うか、手の感覚の延長線で焼いてると言うか、食べながら悔しかったですね〜」
この、「悔しかった」になんともいえない熱いものを感じたのです。
そして、この一文に私は心がシビレて朝まで眠れませんでした。
「牛肉に向き合う姿勢ですよね
素材を、料理を、もっと愛でなければいけませんね」
「味じゃなくて、味わいを作れる料理人になります
本当に素晴らしかったです」
この数か月、ざわざわしていた私の心は、すーっと消えていきました。
いつも気づかせてくれるのは牛であり、肉であり、そしてシェフの言葉です。
悔しいと言わせるシェフもすばらしいですが、悔しいと言ったシェフもすばらしく、そしてなによりもカッコいい。しかし、悔しいってすごい言葉ですね。日本のトップシェフがまだまだ進化する姿を見てみたいし、こういうシェフに使っていただける肉を育てていくことが私の目標であり、目指すところなのです。まだまだ道半ばですが・・・
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