去勢は吊るし30日で雌は40~50日がベストかな
クレメンティア田淵シェフによる桜の枝による燻製。こういうのをセンスと言うんでしょうね。肉は木下牧場の27か月齢の去勢ですが、30日間微風の冷蔵庫で吊るしておきました。微風といえども肉に風が当たるのを避けたいのでミートラッパーで保護しながらじんわりと水分を抜く作業をするのです。28日目あたりからミートラッパーの汚れが激しくなってきたので、そろそろ黴(カビ)が付着しだした頃かなと確認してみると、やっぱりウチヒラに黴が付きはじめ、マルが腐敗に走りだす間際な感じでした。
冷蔵庫の環境にもよりますが、今回使った冷蔵庫ではこのあたりが限度かなと。引っ張ってもせいぜい40日が限界でこのあたりが吊るしとドライエージングの違いです。50日、60日と延ばす方法もあるのですが、今回の肉に関しては吊るしで30日がおいしさのマックスポイントだったように感じました。
木下牧場の牛たちに与えているエサは、近江プレミアム牛が国産飼料100%、それ以外、つまり通常の牛たちは輸入飼料に頼っています。それでも国産の比重を少しずつですが増やしつつありますが、輸入飼料なくしては日本の畜産が成り立たないのが現状なのです。
少し食料自給率の話しをしますと、日本の食料自給率は39%ですからかなり深刻です。しかし自給率の算出法はカロリーベースと生産額ベースの2つがあります。日本はカロリーベースを公式の自給率として発表していますが、じつはカロリーベースで自給率を計算している国は世界的にみても少ないのです。だから一概に39%とは言えないのです。実際、生産額ベースだと自給率は69%になりますからね。
このあたりの話しはまたじっくり書きたいと思いますが、昨年から牛たちに酒粕を与えているのですが、与える量に応じて肉質に変化が見られるようになってきました。肉の味が濃く、酸とのバランスがすごくよくて余韻も長く感じられます。例えば近江プレミアム牛は、肉質の柔らかさを求めているのではなく肉の味を追求しています。このあたりが通常の和牛とは異なるかも知れませんが、柔らかさは枝肉になったあとでも熟成期間を長くすれば肉が応えてくれます。でも、肉の味はエサによってまったく違ってくるのです。
私は料理人に感想を聞くようにしているのですが、近江プレミアム牛はレベルが違うとおっしゃる方ばかりです。出所は同じ木下牧場でもレベルが違うと…。それだけエサが肉質に与える影響が大きいのです。生産者や私が肉質どうこう言ったところで実際に料理するシェフの意見がもっとも正確だと思っています。だから私は信頼のできるシェフにしか肉を預けたくないのです。なんというか、ビジネスではなく私は肉をおいしくしたいし、シェフもおいしい肉(料理)をお客様に提供したいと思うのです。ただ、商売ですから赤字を垂れ流して経営するわけにはいかないので、お互いギリギリのラインでやるわけです。ですから私の周りにいるシェフたちはいっぱいいっぱいですよ。もちろん私もですが。でも、肉がおいしくなってくれたり、その肉でお客様が喜んでくれたりすると、たまに仕入れ値とか売値とかどうでもいいかなと(笑)… まぁ、楽しかったらいいかなって感じです。
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