牛と自然、健康について日々思うこと
公開日:
:
2016/12/06
コラム
先週入荷したばかりのジビーフ「じゅうべい」。名ずけ親は京都の「草喰 なかひがし」の大将だ。柳生と野牛をかけたダジャレだが大将は至って真面目(だと思います)。野牛じゅうべいの会を作ろうと本気とも冗談ともとれることを私に何度も言ってくる。
ありがたいことに入荷する前から各部位ほとんど行き先が決まっているのですが、じつはジビーフに限っては行き先(料理人)に共通していることがあるのです。文字で表現できないのがもどかしいのですが、ビジネスに縁遠い料理人というか、愛に溢れているというか、土の匂いを感じる方ばかりなのです。
19歳で肉の世界に入って和牛一筋でやってきましたから、最初にジビーフを触ったときは驚きました。この牛に何かを感じる人なんているのだろうか。ましてや必要な人なんているのだろうか。マイナスなことしか思いつきませんでした。現地を訪ねるまでは・・・
この写真は最初に伺ったときのものですが、牛舎の牛しか見たことがない私にとっては衝撃でした。お腹に氷柱がぶら下がっているのを見たときはマンモスが頭に浮かんだくらいです。
雪がとければ200ヘクタールの放牧地を駆けるジビーフたちが見れます。喉が渇けば沢に降り、お腹が減れば野草や木の芽を食べ、眠くなれば木陰で休むジビーフが見れます。まさしく野生の生態系そのものです。
先日ある方が、動物は人に囲われた時点で自然ではないと言っていましたが、ジビーフに出会ってから私も常に牛と自然、牛と健康を意識しながら向き合うようになりました。
肉牛は経済動物ですから、私のような考え方では間違いなくビジネスとしては大成できません。こじんまりとした肉屋がせいぜいです。そのかわり、やりたいことをストレスなくできるワクワク感は楽しくもあり次世代に繋げたいという気持ちにもなります。
この20年ほど、地元を始め全国の牧場を訪ねる機会が多くありました。生産者から健康や感謝、愛情という言葉を聞く度にその場では感銘を受けていたのですが、肉を捌くと不自然な瑕疵に戸惑うこともありました。牛舎で不健康な牛を目にしたのもあります。枝肉の段階で瑕疵が付くこともあれば、精肉にするときに異変に気づくこともあります。
売りたいがためのストーリー作りも必要だとは思いますが、消費者は価値に共感するのか、味に共感するのか、どこに対価を見出すのか、ジビーフを見るといつもそのことを考えさせられます。いまのところ出荷すれば予約をいただける状況ですが、いままでの価値だけではダメなような危機感を持っています。だからこそ新しいことにもチャレンジしていきますし、無欲で取り組むしかないと思っています。
もちろん、私は近江牛に育てられましたから、これからもジビーフとはまた違った価値観で関わっていきます。残念ながら嘘のない真面目な生産者が育てた牛がおいしいとは限りませんし、一生懸命育てても評価されないこともたくさんあります。ビジネスですから仕方のないところですが、だからこそ肉屋の仕事に意義があり、存在価値だと思っています。また、よりおいしくなるように手当できることが肉屋の技術だとも思っています。生意気なことを言わせていただくと、表舞台に立つことがない生産者にもっと光が当たるように少しでもお手伝いができれば育てていただいた恩返しできるのかなと思ったりもしています。
そして、これから扱う牛肉は、近江牛だけではなく、ジビーフや阿蘇のあか牛など、土の匂いのする生産者とともに、牛と健康について、自然について、もっと掘り下げて考えていきたいと思っています。その先にあるものは、土地と人と環境が連鎖する牛肉作りだと思っています。
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