近江牛とパイン牛の食べ比べは比較できないおいしさに感動したのでした

対照的な2つの肉の塊。部位はどちらもサーロインですが、圧巻の光景ですね。お客様の驚く声が聞こえてきそうです。私には、生産者と牛の魂が鎮座しているかのような凛々しい出で立ちに見えるのですが、左から岡崎牧場さん(宮崎県)のパイン牛です。ちなみに和牛経産です。ここ数年の異常すぎる相場で和牛は高値で売買されていますが、少し前までは、経産牛は市場でババ牛と呼ばれ、価値のない牛という位置づけでした。その頃からパイン粕を飼料に配合して旨みを乗せる飼育にチャレンジしてきた岡崎さんですから、この肉からは岡崎さんの心意気を感じずにはいられません。
右は、田井中牧場さんの近江牛です。細かなサシと脂質が近江牛らしさを醸し出しています。田井中さんは言わずと知れた県内でも際立った生産者の1人です。何年も前から言い続けていることですが、近江牛ならなんでも良い(おいしい)かと言えば、ハッキリ言います。あり得ないです。近江牛の生産者の中でもトップレベルの田井中さんとて同じことです。今回のように近江牛らしさと条件をクリアした牛を育て上げることもあれば、評価外の牛に育つこともあります。生き物だから仕方がないのですが、それが通用しないのが牛飼いの世界です。ビジネスでやっている以上、結果がすべてなのです。だからこそ肉屋の存在価値と意義があるのだと思っています。
とにかくこの牛は市場で見たときに光っていました。私はサシを追い求めることはしないのですが、たくさんの枝肉を目利きしてると、たまにこういう牛に出会うのです。私が個人的にサシが多い肉を好まないのは、食べて重い(くどい)からであり、自分が苦手な肉を人様にすすめられないというだけのことです。これだけ牛を見てきたのですから、サシを見れば大体はわかります。
雌牛だから、融点が低いからくどくない、あっさりしているという方もいますが、私はそれらがくどさを軽減する理由にはならないと思っています。もちろん脂の質によっては、サシがたくさん入っていても食べやすい肉もありますし、少しだけ食べる分にはすごくおいしいとは思います。が、サシは脂ですから、くどくて当たり前であり、だからどうやって食べるかだと思うのです。
さて、両極端な肉の塊を食べ比べられるという贅沢の極めつけを体験した場所は、駒沢のイルジョットです。焼き手はもちろん高橋直史シェフ。田井中さんの近江牛はエイジングする必要もないので、フレッシュの状態で高橋シェフに届けました。一方、岡崎さんのパイン牛は、30日程度ドライエイジングで仕上げました。このあたりは肉の特性を見極めて、確実な手当てをしてやることで、肉が持っている性能を引き出すことができるんじゃないかと思っています。
もちろん、これだけの施しでは肉は100%の力を発揮してくれません。おいしさの方程式は生産者から肉屋へ、そして料理人までのリレーなのです。


パイン牛は、赤みが強く身が詰まっているので、程よい歯ごたえがあり、エイジングの香りが少しだけ感じることができました。経産牛といえども和牛香もしっかり纏っていて、岡崎さん、良い牛作るなぁというのが率直な感想です。そして岡崎さんをぜひイルジョットへお連れしたいと思ったり。
田井中さんの近江牛は、口の中でとろけるような食感ではなく、旨みが広がるイメージです。近江牛ってこれだよな、と納得する味でした。肉好きにこそ食べていただきたいですね。
さて、イルジョット情報ですが、来週あたりから津田牧場さんのランイチが登場します。こちらは、セリ前の準備室で、問屋さんが「いまいちやなぁ」と低評価した牛(枝肉)です。まぁ、枝肉の見方は人それぞれなので、自分が気に行ったものを財布の中身と相談しながら買うのですが、私的にはドンピシャの好みでした。捌いてみて予想通り、それ以上だったのでこの時点で、ランイチは高橋シェフにと決めいていたのです。楽しみです!
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