小さく強く
公開日:
:
2015/10/31
店・料理人
「女性の視点」とか「女性ならでは」という言葉はあまり好きではないのですが、ヨーロッパの肉屋では女性が肉を捌いている光景をよく見かけます。率直にカッコいいと思います。さすがに限度を超えた力仕事は無理だとしても、かなり優れた技術を持った方に出くわすことがあります。
写真はある女性シェフの料理ですが肉の特性を生かした一皿に仕上げてくれました。50日熟成のサーロインは熟成香が少し強めですが、その特性を生かして合わせたナッツやパクチーとの彩りも鮮やかです。
日本の肉屋も女性がもっとでてきてほしいですね。男性が肉を切って女性が接客するパターンが基本のようになっていますが、逆でもいいですし、女性ばかりの肉屋なんてすごくおもしろいと思うのです。そのためには働きやすい環境はもちろんのこと、肉屋の社会的地位を向上しなければいけません。別に肉屋の地位が低いと言っているのではなく、若い職人が減少している現状をみると、魅力がない仕事なんだと思ってしまうのです。もちろん僕はそんなことは思っていませんよ。それどころかこれほど魅力的でやりがいのある仕事はないと思っています。
ただ、技術を「教える」「教わる」ということはある程度の厳しさも覚悟しなければいけません。いまの若者は持続力がないと言われていますがその仕事に夢がないからでしょうね。若者じゃなくても持続力のない大人はたくさんいますし、給与が良いとか休みが多いとかで長く続くとも思えません。
どのような仕事でも楽しめるようになるまでは辛いことのほうが多いですからね。それでもがんばっている若者もいるわけですから、肉屋が夢のある職業として地位を確立できればいいなと思っています。
ところで、僕の肉を使っていただいているレストランの半分、いや、そんなにいないか、3分の一ぐらいは一人で料理を作られているシェフばかりです。サービスの方はいても厨房は一人で、、という方が多いです。
「いままでやりたかったけど、いいものが手にはいらなくて」シェフはそういいながら大きな鍋からとりわけた。牛テールのワイン煮込みだ。こちらのシェフはたった一人ですべてをこなします。
8本のサンジョゼーベと野菜だけでテール2本を煮込んだという。絶品のおいしさでした。この日のお客さんのためだけの特別メニューです。しばらく作っていないので、コートドールへ行って味の確認をしてきたという心意気がすごい。このシェフもまた毎日が真剣勝負、命がけでやっているのだなと感動したのでした。おいしい料理を提供するってこういうことだと思うのです。
一人でも最高のおもてなしができるし、逆にたくさんのスタッフを抱えているレストランで満足できないこともあります。一人ではやれることには限界がありますが、いろんな店と出会い、いろんな人と出会って感じることは、「小さく強く」。これからのキーワードになるように思います。
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