作り手と食べ手の信頼がつくるおいしい料理

なにから書いていいのかわからないほど高山シェフの料理はすばらしかった。「驚き」と「感動」そして翌日まで続く「余韻」… そのすべてが「おいしい」のために。う~ん、文才のない僕ではここまでが精一杯です。
例えばテール。同席したマッキー牧本さんが書くとこうなる。

その黒い塊は、艶と輝いて、問うてきた。
「俺の精を食べるかい? お前にその心構えはあるのかい?」
健やかに育てられた牛の尾は、8本のサンジョゼーベと野菜だけで、じっくりと煮込まれた。
その太い部分だけが皿に盛られている。ナイフを刺すと、力を入れるまでもなく、ほろりと肉が崩れた。
ゆっくりと口に運ぶ。
ああ。ああ。言葉が出ない。
「おいしい」と言うのも、もどかしい。
放牧された牛は、牛舎に閉じ込められた牛と違い、尾をよく動かす。
発達した筋繊維とコラーゲンは、深い滋味となって舌に流れ、脂はだらしなさが一切なく、きれいな甘みとなって溶けていく。
ワインの酸味とコク、野菜の甘み、そして肉のうま味が同化した、丸い天体が渦巻いている。
と、書いてはみたが、食べても、食べてもその味の深淵は、一端も表現できない。
唯一言えるのは、世界は無限であるということか。
「この料理を作るために、味を再確認するために、コートドールに行って食べてきました」そう高山シェフは言って笑った。
料理人と肉屋と生産者、その三者が生んだ、頂きである。

シンタマ(関西ではマル)の一部でマルシン(シンシンとも呼ばれる)という部分。地方によって呼び名が違うので非常にややこしい。高山シェフは毎日自分の足で市場へ仕入れにいくから仕入れ業者がいない。いや、正確には1件だけ仕入れ業者がいる。それが僕だと言うからなんと光栄なことか。僕とお付き合いいただいているシェフの方々は、牛肉も豚肉も僕に任せてくれているところが多い。だから全力で向き合わないと食材にもシェフにも失礼にあたるし、大袈裟に聞こえるかも知れませんが命がけなんです。

高山シェフがマルシンで作った料理がこちら。皿焼きです(温製カルパッチョとでも言うのでしょうか)もちろんちゃんと火は通っています。

グリーンソースに合わせたのは天肉(牛のほっぺた)とアゴ肉。うまいとしか表現できないのが悲しいですが、天肉の食感を残しつ内臓の旨味も表現した感動の味でした。天肉はワイン煮込みが王道な感じですが、う~ん、参りました。毎日でも食べたいぐらい。

愛農ナチュラルポークの肩ロースを塩漬け、塩抜きを繰り返し旨味を引き出したラビオリ。もちろんおいしい。

料理がでた順番がめちゃくちゃですが、一番最初に出されたこれでみなさんやられるんです。ふわふわの自家製ブリオッシュの上に乗っているのは栗の花のハチミツがかかったムース状のゴルゴンゾーラ。これを口に入れた瞬間に高山シェフの世界へ引き込まれていきます。
カウンター9席でシェフとの距離感が近すぎるので、ライブ感があり、一品ごとに料理のレクチャーあり、学びと感動、なによりも店を出た瞬間の幸福感はあぁー来てよかった、食べれてよかった、また来たい、すぐにでも来たい、そんな感想を各々しゃべりながらお店を後にしたのでした。
おいしかったの言葉に対してシェフは「食材のおかげです」と言うけど、たしかに90%は食材力かも知れません。しかし、残り10%を生かしきれない料理もありますし、逆に今宵の料理のように食材が持つ力以上のものを引き出してくれる料理もあるわけです。
料理はセンスだと思っていました。実際そうだと思います。でも、それだけじゃないことも確かです。シェフは僕に注文をしてくるとき「なにかありますか?」たったこれだけなんです。だからこそ何度も店に足を運び、シェフの話しを聞き、料理を食べなければイメージできないんです。ビジネスでは計り知れない「信頼」が料理をおいしくしてくれるのだと改めて実感したのでした。
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