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ドライエージングビーフと熟成肉

公開日: : 2014/05/01 熟成肉 ,

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ドライエージング50日目でこんな感じ。見た目はヤバイ(笑)
経産牛なので脂も黄色く歩留りもよくない感じですが、驚くなかれ中身は鮮やかな濃赤色で、しばしうっとり。

こちらは、木下牧場@近江長寿牛のドライエージングビーフだが、一般の方からの問い合わせも多く、「木下さんの熟成肉はありませんか」「予約したいのですが」「いつまででも待ってます」なんてうれしい言葉をいただきます。しかしながら、お取引いただいているレストランへすべて行ってしまうため小売りはしないのです。唯一タイミングがあえば、わくわく定期便のメニューに組み入れますが、とにかく年間2~3頭レベルですから信頼のおけるシェフに使っていただくことが最良なのです。

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しばらくバタバタしていたので、手間のかかる取材はお断りしていたのですが、久しぶりに今日は気心知れた業界紙のSさん。完全放牧野生牛(ジビーフ)の取材でした。しかし、この春夏はいつになく雑誌の肉特集が多いですね。ほぼ毎日ペースで掲載依頼のお問い合わせをいただきます。そして、そのほとんどが熟成肉なんです。ブームですからわかりますが、デタラメが目立ちますね。

昨年から「熟成肉」というワードがメディア発信で広まり、「ドライエージング」とはやや一線を画した状況だったのだが、ここにきて「ドライエージング」というワードとごっちゃになりはじめている。

昨日の日経MJに掲載されていた記事によると、熟成肉を、「赤身を低温で1か月、風にさらし、肉質を柔らかくするドライエージングビーフ」というふうに表現していた。広い意味合いでは間違いではない。例えば、冷蔵庫で3日間寝かせただけでも「これは熟成した肉です」といえば、こちらも広い意味では間違いではない。

ブームになる長く前からドライエージングに取り組んでいる方々から見れば、そんなのはドライエージングでもなければ熟成肉でもない。と言いたいところだが(私もそう思っている1人だ)残念ながらドライエージングビーフの規定もなければ熟成肉の規定もない。しかも、「それはドライエージングビーフじゃないです」と言えるだけの根拠もないのです。

一定の温度で風と湿度と温度をコントロールしながら熟成させると、肉の酵素によってたんぱく質をが分解しアミノ酸へと変化ウンヌン・・・もうねぇ、この文言、いたるところで見かけるようになりました。頭のいい学者が言うとこうなります。

肉は時間をかけて寝かせる(熟成させる)と、肉に含まれる遊離アミノ酸が増加し、エンドペプシターゼによって筋原線維たんぱく質のミオシンが遊離したペプチドが生成される。これにアミノペプチターゼが作用することで、遊離アミノ酸が増加する。また、肉中のミオシンは、さまざまな酵素作用で分解され、債主的にデアミナーゼによってイノシン酸が作られる。これら肉の旨味成分である遊離アミノ酸、ペプチド、イノシン酸などは、肉を熟成させることで生れるのである。

ブームになれば、需要が高まり、消費者 → 飲食店 → 問屋 という順に要望が流れるわけです。そして、単発のブームで終わるのか、それとも続くのかと様子を伺っていた食肉卸を手掛ける大きな問屋がついに熟成肉に参戦というわけです。これが今年後半の食肉業界のトレンドになると予測できます。

熟成肉&ドライエージングビーフが混沌としてきているが、規定や決まりがない以上、各社様々な形のドライエージングビーフ&熟成肉がでてくると思います。
しかも、熟成肉の特集雑誌である程度の手法を公開しているので、見よう見まねで取り組んでいる肉屋や飲食店も増え始めている。しかし、そのほとんどが私たちがターゲットにしているドライエージングビーフとは異なるのです。

飲食店の方は、仕入れるのなら、まずどういった方法で熟成させているのか、そして保存方法から料理方法に至るまでのプロセスをじっくり聞いたうえで判断してほしい。にわか仕込みの知識や技術では知りえない経験は、おそらく話していたら分かるのではないだろうか。

それと、枝肉の吊るしや枯らしと呼ばれる、冷蔵庫内で1ヵ月程度保存しておいた場合の「熟成肉」では、私たちが取り組んでいるドライエージング特有の「香り」すなわち「熟成香」はつかない。あくまでも私の経験からなので、そうでない場合もあるかも知れない。あまり考えられないが。

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こちらは、「枝枯らし」と呼ばれる手法だ。枝枯らしなんていうと、新しい技術っぽく聞こえるのだが、私が修行時代から当たり前のように目にするもので、どちらかというと古くから伝わるものだ。枝肉のまま風を当てずに寝かせているだけで、これも熟成肉と言えなくはない。

私は何度も枝肉熟成にチャレンジしたが、うまくいったこともあれば失敗もあった。結果として、サシのある肉は、脂が酸化して不味くなる。そして日持ちしない。付加価値をつけるための枝肉熟成は無意味ではないにしろ、サシの多い肉には不向きだと思う。赤身の熟成肉がこんなにうまいのだから、サシの多いA4やA5を熟成させれば、さぞうまくなるのだろう、、、という考え方は私の中では間違いだ。いい肉はなにもしないほうがいい。経験則からつくづくそう思うのです。

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私がターゲットにしているドライエージングビーフは、写真のように肉の表面をカビが覆います。ここで私が重要視しているのが「香り」だ。さきにも少し書きましたが、香には大きく分けると生肉の状態の香りと加熱したときの香りの2種類があります。熟成肉の加熱香は独特で、よくいわれるナッツ香が特徴です。

ただ、誤解しないでほしいのは、熟成肉ならなんでもかんでも香るというものではない。熟成日数が短ければ香は弱いし、熟成期間が長くても個体によっては肉質が柔らかくなっただけで香らないものもある。また、骨を抜いてから次第に香りが強くなり、やがて腐敗がはじまるのだが、その見極めは経験でしか計れない。加熱香もちょっとヤバい感じがするので、そのあたりの判断を誤ると非常に危険だ。

どちらにしても、ドライエージングビーフ&熟成肉はまだまだブームが落ち着きそうにない感じだ。飲食店のみなさん、消費者のみなさん、ブームに惑わされずしっかり見極めてくださいね。

 

 

 

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