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変わりゆく飲食店の欲求と需要

公開日: : 2013/03/19 熟成肉

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いつだったか、うちのスタッフが国道沿いのファミレスの看板はややこしいですね。
と言っていたまさに、その看板の前で小春日和の本日昼下がり、渋滞に巻き込まれてしまった。

どこにも熟成肉とは書いていないが、消費者からすれば紛らわしいだろう。熟成肉ではなく「熟成させたロース」という意味だと思うのだが、言うなれば「特選」とか「極上」のようなものでロースにハクをつけるためのネーミングであることはあきらか。

肉屋で言えば、「並カルビ・上カルビ・特上カルビ・極上カルビ・特選カルビ」で分類して価格設定を変えるような感じだろうか。

ところで、毎日のように業務用の問い合わせをいただくのだが、昨日今日とデスクワークをしていたこともあり、問い合わせの電話に直接対応させていただいた。

こんなふうに書くと、なにを偉そうにと思われそうだが、牛舎へ行ったりセリに行ったり、出張で出かけることが多いので、最近は即時の対応が難しくなってきた。

私以外のスタッフで分かることならそれでいいのだが、ドライエージングビーフ(熟成肉)に関しては、私以外に説明できるものがいない。スタッフを教育すればいいのだが、経験だけはどうしても埋められず、冷蔵庫の大きさ(容量)や部位別に対しての保存方法などは私でなければピンポイントでアドバイスできないのだ。

もちろん、問い合わせいただいたことに対しては、出張中であっても、出先から折り返し電話させていただくのだが、タイトルにもある「変わりゆく飲食店の欲求と需要」というものを、ここ最近強く感じるので今日はそのことについて書いてみたい。

むかしむかしの食糧難の時代は「胃」が満足する(満腹になる)時代であり、それが充足されると「舌」で楽しむ時代になり、現在のように成熟した時代は「頭」で楽しむ時代だということが言われている。そして、これからは「こころ」の時代だと。

食はそれらが同時に存在するものであると思うし、牛肉(たとえば焼肉店)においては、腹いっぱい食べてなおかつ安価な食べ放題があり、質を重視する店もあり、サシ重視な高級店もあるわけで、店によってなにがマジョリティ(多数者)になるかだと思うのです。

昨日と今日で、メール、電話での飲食関係者からの問い合わせが14件ありました。そのうち熟成肉の関する問い合わせが9件、近江牛に関する問い合わせが3件、牛についての問い合わせが2件でした。

熟成肉の問い合わせ9件のうち、ワインをメインにしている店(肉とワインの店、みたいな感じ)が、なんと7件なんです。ちょっと前なら考えられないことです。ほんの2~3年前なら問合わせと言えば焼肉店か居酒屋がほとんどだったのです。

そして私にとっては大変うれしいことで、格付け(サシ)や性別(去勢or雌)を指定してくる方がまったくいなくなったのです。それよりも、近江牛じゃなくても私が選んだ経産牛が欲しいという声も多くなってきた。一応、近江牛専門店という看板を掲げているのですが(笑)

ところで、熟成肉を仕入れたいが、仕入れた後の保存はどうしたらいいのか?
という質問をたくさんいただくので、もう一度、ホンモノの熟成肉のこと、保存方法のことを書かせていただきます。

牛は屠畜すると筋肉が硬く収縮した状態になります。いわゆる死後硬直です。枝肉のまま冷蔵庫で数日から数週間寝かせると、肉の内部でタンパク質が分解されてアミノ酸が生まれ旨味が増します。この状態を一般的に「熟成」と呼ぶのですが、冒頭のファミレスメニューで見かける「熟成ロース」などは、アメリカやオーストラリア、カナダ、ニュージーランドで屠畜後、日本のスーパーや飲食店へ流れるまでに、いわば勝手に「熟成」されるのです。みなさんが日常で食べている牛肉もこの過程を経ているのです。

肉はもともと酵素を持っていて、酵素はタンパク質を分解し旨味成分であるアミノ酸へと変化します。自分を自分で分解することから、生物学の世界ではこれを「自己消化」と呼んでいます。

畜産関係者(肉屋も含めて)がよく言う「熟成」とは、このことを指しているのですが、ようは「肉をねかせる」ということなのです。気をつけなければいけないのは「熟成」と「熟成肉」を混在しないこといです。私が手掛けている熟成肉は、ドライエージングによるもので、今度はそのあたりのことを、過去にも何度か書いていますがもう一度書いておきます。

まず、「自己消化」した枝肉を、温度と湿度、風、菌をコントロールしながら私の場合は、40日間、専用庫でドライエージングさせます。肉によっては60日程度様子を見ながら引き延ばすこともあります。熟成させる肉の条件は、骨付きであるということ。骨付きでないと肉が腐敗してしまいますから飲食店関係者は自店の冷蔵庫でやるにはちょっと危険すぎますのでご注意を。

このあたりを理解していないと、骨を抜いた塊の肉を熟成させているつもりが、腐敗しているといったケースが非常に多いのです。当の本人たちがそのことに気がついていないことが問題ですが、事件が起こらないうちにやめていただきたいものだ。

ドライエージングによる熟成肉は、科学的に解明されていないことが多くあるのですが、肉の表面にある種のカビが生えることで、肉内部の酸化が防止され、腐敗を進める菌の繁殖を抑える働きをしているのではないかと推測されます。

「寝かせる=熟成」、すなわち「自己消化」とは異なる内容のタンパク質、脂肪の分解により、赤身肉は繊維が分解されて柔らかくなり、深い風味と共にナッツのような香り(熟成香)を得ることができるのです。

これらのプロセスは、「熟成肉」と呼ばれてはいるものの、菌が繁殖して棲みついた専用庫(酒蔵のようなもの)で行われることから、本当は「発酵」と呼ぶほうがふさわしいのではないかと思います。

先にも書きましたが、発酵と腐敗は紙一重で、特に骨がついていない状態の肉を、普通の冷蔵庫で熟成まがいの行為をすれば、確実にそれは腐敗であり、臭いをかげばカビ臭がするはずです。

ブームに乗っかるのではなく、しっかりとした知識と設備、そして経験で赤身肉のおいしさを追求するドライエージングに取り組んでいただきたい。そして赤身肉のおいしい食べ方の一つとしてブームで終わらせずに、肉質の硬い赤身肉をおいしく食べる方法として定着させることができれば、経産牛を含め市場価値の低い牛肉が脚光を浴びるチャンスになるのではないかと考えています。それは価値の創造であると同時に「おいしさ」も伴う新たな需要につながるのではないかと思うのです。

【熟成肉の保存方法について】
納品はナマの状態と真空をお選びいただくことができます。真空にすると味が落ちると言われていますが、それほど極端に変化はないと思います。保存は、ミートペーパーに包んで冷蔵庫で保管していただければ良いのですが、ナマのままラップもなにもかけずに、いわゆるハダカのまま保管すると、他の肉に菌が移る場合があります。大きなブロックの場合は、当店で分割して真空パックにすることも可能です。

 

 

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