熟成肉とドライエージングビーフの違い
先日の肉Meets in 山下ワイン食道さんで参加者が絶賛した熟成肉(手前)は、鹿児島県産のシンタマです。骨付きモモを40日ドライエージングした後、注文が入ればシンタマ、ウチヒラ、ソトヒラ、ランプに小割して真空パックで発送という段取りです。注文が入らなければ熟成期間が伸びるだけなのですが、いまのところ熟成が追い付かない状況のため30日で早出しすることも度々あります。
テレビや雑誌で見てとりあえず使ってみたいので1.0kg程度送ってほしいと毎日のように電話がかかってくる。値段はいくらですか?、、、とか、業務用価格になりますか?、、、とか、なにが邪魔くさいかというとホームページ見ながらこのような質問ですからね。そのままポチッと買い物カゴに入れてくれよー。て叫びたくなります(笑)
今日は東京のお客様と電話で話していたのですが、ロースは熟成香がしたのにモモは香がイマイチしない。とのこと。焼き方に問題があるのでしょうかとも言われたのだが、そうではなく、ロースは肉の形状から菌が付きやすく、モモは4部位を骨付きのまま熟成させるので表面上にしか菌が付かないことが原因です。ただし、小分け(1.0~2.0kg程度)にしてミートペーパーに包んで冷蔵庫で保管しておくと日増しに熟成香が強くなっていきます。・・・というのが私の経験上です。
熟成肉はここ数年で認知度が上がり、一般の方でもよく耳にするワードですが、どれが正解でどれが不正解なんてないと思うのです。
牛は屠畜すると筋肉が硬く収縮した状態になります。いわゆる死後硬直です。枝肉のまま冷蔵庫で数日から数週間寝かせると、肉の内部でタンパク質が分解されてアミノ酸が生まれ旨味が増します。この状態を一般的に「熟成」と呼んでいるのですが、みなさんが日常で食べている牛肉のほとんどがこの過程を経ているのです。
肉はもともと酵素を持っていて、酵素はタンパク質を分解し旨味成分であるアミノ酸へと変化します。自分を自分で分解することから、生物学の世界ではこれを「自己消化」と呼んでいます。
熟成肉とドライエージングはまったく違うもので、私が手掛けているのはドライエージングです。「自己消化」した牛肉を、温度と湿度、風、菌をコントロールしながら40日間、専用庫で寝かせます。肉によっては60日程度様子を見ながら引き延ばすこともあります。熟成させる肉の条件は、骨付きであるということ。骨付きでないと肉が腐敗してしまいますから独自で熟成をやる場合は要注意です。
ドライエージングによる熟成肉は、科学的に解明されていないことが多くあるのですが、肉の表面にある種のカビが生えることで、肉内部の酸化が防止され、腐敗を進める菌の繁殖を抑える働きをしているのではないかと推測されます。
ドライエージングビーフの特徴としては、タンパク質、脂肪の分解により、赤身肉は繊維が崩れて柔らかくなり、深い風味と共にナッツのような香り(熟成香)を得ることができるのです。
これらのプロセスは、「熟成肉」と呼ばれてはいるものの、菌が繁殖して棲みついた専用庫(酒蔵のようなもの)で行われることから、「発酵」と呼ぶほうがふさわしいかも知れません。
ただ、ワインにボジョレー・ヌーボーがあるように、新鮮な(新しいという意味ではなく)肉を好む方もいます。要は好みの問題なのですがフレッシュとエージングという対極にある肉を食べ比べるのも楽しみ方の1つだと思います。
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