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お客さんが求めるものよりも自分がやりたいことを優先するカッコよさ

公開日: : 2015/01/12 近江牛

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昨年の12月11日にと畜したのでちょうど1ヵ月が経過しました。一般的な流通過程は、と畜後に枝肉の状態でしばらく寝かせてから(4~5日程度)骨を外して部位ごとに真空パックにします。賞味期限は真空パックにした日から30日程度。30日は鮮度を維持しますよという目安です。ただ、賞味期限が近くなった肉は旨みが抜けてしまっておいしくありません。真空パック内にドリップ(肉汁)が溜まり、パックを破ると旨味を含んだドリップが流出します。旨味が抜けた肉は脂が酸化して手触りもよくない。柔らかさだけを求めるのであれば問題ないのだが、余韻(例えば酸味や口のなかでまとわりつくような脂質など)を求めるのであれば枝肉にこだわりたい。

ウチヒラにうっすらカビが付き始めているのがお分かり頂けるかと思いますが、鼻を近づけると熟成肉にみられるナッツ香が微かにします。熟成肉は温度、湿度、風を調整しながら微生物の働きで肉を育てていくのですが、枝肉の吊るしは温度管理だけで風は当てません。必要なのは長期保存に耐えられる肉かどうかです。ここがポイントです。なんでもかんでも枝肉で吊るせばおいしくなるかといえばぜったいNOです。コツのようなものもありますが私が修行時代(34年前)からずっとやってきたことなので今さら珍しいものではありません。

ただ、当時と現在では少しやり方を変えなければいけません。理由は肉が変わったからです。30日以上耐えられる肉が少ないのです。人間と同じでひ弱になったというか肉に力がなくなりました。和牛は改良されて今日に至っていますから、考えられる原因はこのあたりとエサも1つの要因かも知れません。どちらにせよ詳しいことはわかりませんが、日々肉と向き合っていると肌で感じることが多くあります。理屈ではなく感覚なんです。

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こちらは、同じ肉ですが24日目で骨を外したサーロイン(左)とランプ(右)です。正直な感想を言うと今まで食べたどんな肉よりもおいしかったです。完璧なおいしさです。近江牛といえば霜降り肉の代名詞のように思われている方もおられますが、赤身の近江牛だって存在するのです。格付けでいうところのA2とかA3は赤身が多い肉になります。ただ赤身が多いとどうしても水分量も多くなります。そのあたりのバランスが難しく味にも影響するのです。だからこそおいしく昇華させるために枝肉で吊るしたり時にはドライエージングにしたりと個体を見極めて最良の方法を尽くすのです。

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24日目で骨を外した肉と32日目で骨を外した肉は味が違うのか。触った感触はあきらかに違っていました。あとは料理人の腕次第というところですが、焼き方によっても味が変化していきますのでご興味のある方はご連絡ください。いまならソトヒラとウチヒラがあります。1ブロック10kg程度です。

昨夜、この肉を扱ってくれているシェフと話していたのですが、「こういう肉を探していたんです」と興奮していました。ものすごく嬉しそうに肉をカットしたときの様子などを話してくれるのです。長年の経験から肉を触りニオイを嗅ぎ、フライパンに入れた瞬間にこの肉がどれくらい冷蔵庫で寝かされていたのかが分かると言います。揚げ焼きの場合は特に油の弾き具合でだいたいのことは分かります。

シェフは常連のお客さんから、近江牛のメニューが増えているのを見て、近江牛専門店にでもなったのか?… というようなことを言われたそうです。しかし、シェフは近江牛ウンヌンではなく、こういう肉を探していたんです。肉質が・・・脂質が・・・とにかく食ってくれ!といった感じでお客さんを納得させてしまったそうです。そしてこうも言っていました。「この肉なら自信満々でおすすめできます」と。

お客さんが何を求めているのかより、自分が何をしたいのか。そちらを優先しているシェフの姿はあまりにもカッコよかった。

 

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