赤身肉をよりおいしく、技術と知識とガストロノミー
明日からの年末年始の出荷ラッシュを迎えて、40日のドライエージングを経た熟成肉が10本、すばらしい仕上がりをみせている。
熟成肉に関して、ここ最近問い合わせが増えているのでもう一度おさらいしておきたい。
熟成肉をつくるには、肉の塊を真空パックにしたウェットエージングと通気性のある冷蔵庫に骨付きのまま置くドライエージングの2とおりがある。
ウェットエージングは、簡単に言うと塊の肉を真空パックして賞味期限を約30日前後に日持ちさせる画期的な技術なのだ。ありがたいことに真空技術が発達したおかげで牛肉の流通がスピーディになった。ただ、真空する時のバキュームにより肉の旨味がドリップとともに外部へ流出してしまうので、真空パックしていない肉と比べると味は落ちる。
私が手掛けている熟成肉は、骨付きのまま置くドライエージングで、重要なのは空気の循環に必要な風、温度、湿度、この3つをうまくコントロールすることだ。これに伴う設備投資が結構な額になってしまうので二の足を踏む方が多い。もちろん、設備を整えたからってうまくいく保証はない。
最近分かったことだが、水冷の冷蔵庫であれば工夫次第では熟成肉ができてしまう。ただ、新設の冷蔵庫はほとんど空冷なので、中古品か現在水冷式の冷蔵庫を使っているという条件になるだろう。
牛肉の赤身の主成分は水分を除いたタンパク質です。
牛肉にはタンパク質を分解する働きを持つ酵素が含まれていて、筋肉の繊維や繊維を束ねるコラーゲンが分解され、アミノ酸に変化して旨くなったり、硬い肉が柔らかくなったりする。これが熟成といわれるものだ。
少しややこしくなるが、「熟成」という言葉が氾濫しているので、人によっては捉え方がいろいろあるのだが、牛肉の熟成を理解したうえで次にドライエージングについて、もう一度キーとなる文章を以前に書いているので参照していただきたい。
ドライエージングにおけるキーワード:「湿度と温度」、「風のコントロール」、「酵素の働き」、「菌による熟成香」(→クリック)
酵素について、その特性と働きを解説すると、酵素とは動植物の体内組織に存在し、体内で起こる化学反応を促進させる機能を持つタンパク質分子である。生物は体外から物質を取り入れ、体内で変化して吸収し、不要物を排出する。また、細胞は常に新陳代謝をくり返している。それらの活動には化学反応が不可欠で、それを手助けしてくれるのが酵素なのだ。家畜が屠畜され、野菜が収穫された後も酵素の多くは素材中の成分をどんどん変化させる。果物の切り口が茶色くなったり、ニンニクの切り口から香り成分が発生するのも酵素の働き。また醤油や味噌は麹菌や酵母が出す酵素が発行を担う。※専門料理5月号P89参照
熟成肉に関してはいまだ謎な部分が多く、科学的にハッキリと検証されているわけではない。しかし、酵素やタンパク質が変化する科学も知っておくとおもしろい。肉をカットするには経験と知識、センスが重要だが、料理の世界でよく聞く分子ガストロミーの視点も今後はおいしさの裏付けとして強みになりそうな気がする。
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