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近江プレミアム牛と経産牛、木下牧場の取り組み

公開日: : 2014/06/10 近江プレミアム牛

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私と木下牧場さんとではじめた国産飼料だけで牛を育てるプロジェクト(ネーミングが大それたほうがうまくいく気がしたのでした)が10年を過ぎました。失敗の連続でようやく3年前から体制も整い、出荷頭数が増えるごとに牛の体重も味も安定してきました。ただ、味は様々な環境によって変化してしまうのでキッチリ分析して数字で示す必要性を感じていたのです。そんなとき、以前から親交のある京都大学の熊谷先生にお声がけいただき、今回から熊谷先生率いる学生チームが参加してくれることになりました。さしずめ私たちの「頭脳」担当といったところです(笑)

私たちの取り組みが、フードアクション・ニッポン・アワードにおいてプロダクト部門優秀賞を受賞してからは、少しですが認知度が上がり、その後はテレビに出演させていただいた影響もあり、いろんな方からお声がけいただくことが多くなりました。しかし、どれもこれも胡散臭くて(笑)

国産飼料だけで牛を飼育するという無謀なチャレンジは平坦なわけではありませんでした。いまも課題はたくさんありますが、とにかく「やっかみ、妬み、嫉み」がひどい。どの業界でもそうなのでしょうが、右向け右に少しでも逆らうと風当たりがすごいですね。

国産飼料だけで育てるということは、ある意味和牛の絶対的価値観でもある格付けを無視する必要性がありました。穀物飼料を給餌しないので、格付けはA2、よくてもA3になる確率が高いことが当初から予想されていました。

私が木下さんにお願いしたことは、国産飼料で育てる牛だけでなく、通常の牛に関してもビタミンコントロールなどせずに自然のまま育ててほしいということです。当初、A5の発生率が高かった木下牧場ですから、飼い方を変えれば牛が変化し、しいては肉質に影響を及ぼします。案の定、格付けはA3の発生率が高くなりました。ただ、肉の味が驚くほど向上していったのも事実です。しかし、口には出さなかったが木下さんの心情は、おいしいと評価されるのはありがたいことだが高く売れないと生活が・・・という悲痛な叫びが私には聞こえていました。そんな心の声とはウラハラに、お客さんからの反応は「木下さんの肉はうまい」と評判になってきたのでした。実をとるか益をとるか….. 悩ましいところです。

他の農家からの反応は冷ややかなものでした。木下はもうダメだ。カネにならない牛しか作れなくなったと陰口をたたかれる始末。私に至っては、カネがないから高い牛(A5)が買えなくなったとか、それはもう散々な言われようです。以前は私もご多分に漏れずA5やチャンピオン牛を買い続けていましたからそのように思われても仕方がないのですが、セリ場で面と向かって嫌味を言われたこともありました。それでも挫けずに続けられた理由は、私も木下さんも人の目は気にしない性格だったからにほかありません。

当時木下さんは、いまはいいけどこの先、「ビジネスとして割り切った飼育に明日が見えない」ということを言っていました。私はと言うと、牛に無理をさせてサシを入れ、太らせるだけ太らせて、挙句の果てに死んでいく牛をたくさん見てきました。サシを入れる行為に農家は「競争」しているようにしか見えなかったのです。できあがった肉は見た目こそキレイだが脂まみれで食べられたもんじゃない。ある農家なんかは自分が育てた牛の肉を「脂くどくて食べれない」と平気でいい、また別の農家は、自分で育てた肉は食べたことがないと言う。機嫌の悪さを牛に八つ当たりする農家の姿も見ました。そんな農家から牛を買おうなんて私は思えない。

肉だけ見ておいしさの判断をするのではなく、育てている人や流通者や販売者の人柄、それらすべての環境がおいしさに含まれる時代がいつかくる。そして、そういうことに気づく消費者がでてくるはずだ。その人たちに気づいてもらえるような取り組みでなければやる意味がない。普段なにも考えていない分、腹が決まれば行動が早いのが私たちです。

国産飼料で育てた牛に「近江プレミアム牛」とネーミングして、販売体制も整いました。しかし問題や課題は山積みだった。牧草中心の飼育なので仕上がりは、A5レベル、いや、それ以上に高価なものになってしまう。しかし、格付け的には最低なのです。畜産関係者にはバカげた話だと理解していただけると思いますが、つまりA2の枝肉をkg/2500円で私が引き取るということです。これではビジネスとしては成立しない。でもやり通さなければ木下牧場は潰れてしまう。
いや、潰れはしないが元のA5連発の見た目重視な牛飼いに戻らなければいけなくなる。

さてどうしたものか、、、と実際には悩むこともなかった。月1頭ペースなのでなんとかなるかと楽観的な考えだったのが正直なところです。そんな私たちの取り組みを真っ先に理解し応援し、協力、いや、この場合、協働といったほうが正しいかも知れない。とにかく輪に加わってくれたのが、南山の楠本さんと孫さんでした。スタッフ総動員(バイトもパートも含めて)で木下牧場で研修したり、取り組みを発表できる場作りをしていただいたり、ほんとうに感謝しかありません。

輪は次第に広がり、賛同してくれる料理人が全国各地に増えていきました。肉の評価が高まるとともに取り組みに共感し、木下牧場を訪れて作業を手伝ってくれる料理人たちも現れました。重労働なので1時間程度お手伝いしてギブアップするケースがほとんどですが(笑)

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子どもたちにも見せてやりたいと、三軒茶屋のレストラン愛と胃袋 鈴木信作シェフご家族が来られた時の写真です。まさしく食育です。

ということで、京大の熊谷チームが加わり、長いスパーンになりますが分析結果を数値化し近江プレミアム牛の飼育にいかしていきたいと思います。見た目は益々しょぼくなり、味は益々向上することでしょう。ご期待ください。

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熊谷先生が来られた日に、ちょうど経産牛2頭の出荷がありました。16産したお母さん牛は、まさしく繁殖肥育一貫の木下牧場を支えてきた功労者です。通常は再肥育して肉を付けてから出荷するのですが、私はいまのままで肉になってもらいたいと願います。大切に扱い、おいしく料理してくれるシェフへと命をつなぎたいと思います。

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見送る木下崇弘くんの後ろ姿とともに、私の頭には数名のシェフの顔が浮かびます。

 

 

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