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私たちの健康は生産者に買い支えてもらっているのです

公開日: : 2013/08/09 雑記

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私が手掛けた肉がどのように料理されているのか?

ちょっと話がそれますが、じつは、肉牛農家の方って自分が一生懸命育てた牛の肉を食べたことがない、って方多いんですよ。

想いが強いから食べられないということではなく、行き先不明なのです。個体識別番号で最終屠畜場所までは分かっても、そこからの経由が不明なのです。

特に繁殖だけをやっている生産者(繁殖農家)はその確率が高いように思います。子牛を8ヶ月程度育てた後、子牛市場へ出荷するのですが、出荷した子牛はセリにかけられ、今度は肥育を専門にしている生産者(肥育農家)に買われていきます。子牛の産地は全国にあり、滋賀や三重の肥育農家さんは宮崎や鹿児島、熊本の子牛市場で買い付けることが多いのです。買い付けた子牛を滋賀や三重で22ケ月程度育成して、近江牛や松阪牛として出荷するのです。

屠畜後、枝肉のセリが行われ、主に問屋が買い付けるのだが、そこからさらに複数の問屋が仲介することもあり、そうやって最終的に飲食店や一般消費者の元へ流通していくのです。かなり複雑で、ここまでくれば繁殖農家さんは自分が育てた牛がどこへ行ったのか知る由もないのです。つまり自分が育てた牛の肉を食べたくても食べれないということなのです。

さて、冒頭の写真は、先日伺った神楽坂のアルベラータで高師シェフに焼いていただいた熟成肉です。いろんなシェフの方とお話しして、私が手掛ける熟成肉は、最近ブームになっている熟成肉とは少し違うように感じていたのですが、経験豊富な高師シェフと話してやはり違うのだと確信しました。

牛は1頭づつに「個性」があります。しかし、狭い牛舎の中で詰め込まれて飼育されている牛たちは運動することもなく、一度寝てしまうと立ち上がるのにも一苦労です。サシを入れるためにビタミンを切らしたり与えたりを操作され、ひどいときには立てなくなったり瞳孔が開きっぱなしで失明する牛までいるのです。こういった飼育方法に慣れてしまった生産者を多く見てきました。私はなんか違うなぁと・・・

ビタミンの中でも必須栄養素がビタミンAで、それを操作することを「ビタミンコントロール」と呼びます。なんかステキそうな名前ですが、結局はビタミンを欠乏させることなのです。私が過去見てきたサシ依存症な生産者は牛の健康なんてお構いなしです。だらかこそ、私たちの取り組みや木下さん、藤井さんの牧場を見た方たちは驚かれるのです。

撮影:中塚麿美

撮影:中塚麿美

木下牧場や藤井牧場では、ストレスを軽減させるために放牧場を作り、自然に派生した草を食べさせ、より健康を心がけた飼育をしています。だからといっておいしいから買ってくださいなんて言いません。熟成度合や精肉にするタイミング、もっというなら調理法や食べるときの状況によって同じ肉でも大きく変わるのです。ただ、私が自信を持って言えることは、真面目にちゃんと牛と向き合って飼育しているということです。当たり前やん、と思われそうですがこれがなかなかできていない生産者が多いのです。

レストランに生産者を連れて行くことが多いのですが、自分たちが育てた牛の肉が、どのように料理されているのかを知ることって大切なことだと思うのです。おいしいときばかりとは限りません。ときには意に反する調理をされることだってあります。でも、木下さんも藤井さんもいつも笑顔で食べています。

そういうときに私はいつもこう思うのです。この人たちによって私たちの健康は支えられているんだなって。安さばかりを追求すれがどこかでだれかが泣いています。生産する人、流通する人、販売する人、その商品に関わるすべての人たちが安心して生活できる価格、つまり「適正価格」で買うことによってそれぞれを支える「買い支える」という概念があります。

もちろんそのとおりです。しかし、こういう考え方もあるんだよとある方が教えてくれました。「買い支える」ということは、生産者を支えることではなく、私たちの健康を支えてもらっている、そのために適正価格で購入するということなんだと。だから「買い支える」ではなく「買い支えてもらっている」が適正表現だと。まったく同感です。

私の取り組みの基本は「生産者の側に」ということで10年前から行動してきましたが、よくよく考えれば、生産者の顔は知っているが消費者の顔は知らない、ということに気づきました。それからは、さすがに一般家庭にお邪魔するのは気がひけますので、私が手掛けた肉を使ってくださっているレストランに定期的に訪問して食事するようにしています。ときには生産者も連れて行きますので、そこには育てた人、肉にした人、料理した人が揃っているわけです。

先日は、神楽坂のアルベラータへお邪魔しました。高師シェフは熟成肉の経験も豊富ですが、実際に顔を見て話すことでさらに細かな要望などを聞くことができます。私自身も料理をやりますので調理した肉を見ながら、食べながら火入れにまつわる話を聞くことができます。

この日の熟成肉は、鹿児島県産の経産牛です。塩、コショウをした肉を強火で焼き、背脂の上で休ませます。肉の内部に熱を回すのが目的です。休ませた肉をオーブンで2分程度加熱します。その後、5分ほど休ませてから再びフライパンで温め、ゆでた黒米の上に肉を盛って出来上がり。

熟成肉にソースは合わないと思っていましたが、高師シェフは肉にローズマリーオイルをかけ、赤ワインソースとポルチーニのペーストで熟成肉をさらにおいしくしてくれました。

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生産者も私も、こうした行動から学ぶことで次の生産意欲につながるのです。

私たちの仕事は、機械では代われないものであり、机に座って数字を眺めていても肉はおいしくなってくれません。良い仕事をするにはこうして経験を積むしかないのです。

 

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